崩壊

はじめは、雨だった。
それが涙だと気づくのに、暫くの時を必要とした。
結局は、自分は生まれた時から決められていた。
自分の道だと信じて。
それが全ての人を幸せにすると信じて。

疑いはした。
それでいいのかと、自問自答を繰り返しもした。
それでも、それがきっと誰かを―――自分を囲む全てを幸せにすると。
ただ純粋に、己の全てだと想っている者の言葉を信じて。


だが結局―――それは虚構だった。
自分は全て決められていた。
それが適わぬと判断された時、失敗作だと断定された。
自分はこの世に生まれて来てはいけなかったものだと宣告されたようなものだった。

全てに興味をなくした。
知識を蓄えるのは時間つぶしにはなった。
知らないものを覚えると言うことは他人を欺く役に立った。

だが、それだけだ。
自分に興味を無くしてしまった以上、他の何ものにも興味を持てるはずがなかった。

だって、世界がどうなろうとも構わないから。
自分がどうなろうとも構わないから。
坂道で転がり出した石が止まらない様に。
自分が生きている理由も、ブレーキがないから以上のものはなかった。
きっと、いずれ道が平坦になり、慣性がなくなってしまえば。
自分は簡単にその活動をやめるのだろうと、他人事のように考えていた。


事実、世の中は自分がそう考えようともまるで支障も無く回っていたのだから。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９９６　４　１７