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広がるメロディ、広がる音楽。連なる音は世界中へと注がれてゆく。
カウンター
プロフィール
HN:
八城 友
年齢:
34
性別:
男性
誕生日:
1990/04/17
職業:
フリッカースペード→フリッカークラブ
趣味:
歌うこと、音を聞くこと、本を読むこと
自己紹介:
ここはWT2シルバーレインのキャラクター『八城友』のキャラ(&背後)ブログです。興味のない方、分かる気のない方は回れ右でお願いします。

●カテゴリ説明
・にっき。:友の日記。
・うた。:背後が思い浮かんだ歌などをつらつらと。また、アーティストの紹介なども。
・追憶:友の過去話など(コメント不可)。
・馳想:友が今考えていることなど(コメント不可)。
・背後日記:背後に関するもの。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
この作品(画像)は、有限会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』の世界観を元に、
有限会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
イラストの使用権は作品を発注した八城・友に、著作権は作者様自身に、全ての権利は有限会社トミーウォーカーが所有します。
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身を切るような寒さに小さく体を震わせ、目を覚ます。
暫く布団の中でまどろもうか、と言う誘惑が脳裏を過ぎるが小さく頭を振った。
もう、いい時間だ。
学校に行く時間まで、時間が無い。
きし、と音を立てて階下へ脚を運ぶ。
台所に立つ人影を見て、声をかけた。

「おはよう」
「あぁ、お早う――母さん」

静かに笑う。
九州と言えど雪も積もるし、寒いものは寒い。
小さく身震いし窓の外を見やると、やはりと言うべきかうっすらと白く化粧がかった焼畑の様子。

「あぁ…やっぱり雪、積もったんだ」

小さく一人ごちる。

「友?」
「ん?」

母の呼ぶ声に振り向く。
母は心配そうに小首を傾げた様だった。

「大丈夫?」
「んー…なんとかなるよ。大丈夫。これくらいの勉強なら分かるし、うん」

笑い顔を作り、母の心配の要素を取り除いてやると母も安心したように声を上げた。

「あんたが言うなら、そうなのかもね」
「まぁここだけしか受けてないんだしねぇ…やるからには受からんと」

ちらり、と茶封筒に目を落とす。
遠い神奈川は、鎌倉。
受かることが出来れば奨学金で通う事が出来る。

「別に無理に奨学金じゃなくても…」
「まぁほら、折角来たんだしね」

話を遮るように笑って応えると、着替えが入った荷物を背負った。

「それじゃ、行って来ます」

明後日。
鎌倉・銀誓館学園の高等部の入学試験である。




「いってらっしゃい」


母の声を背に、少年は海を渡った。
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がちゃ…と、ドアを開く。


途端、咽返るような煙とアルコール、薬物の匂い。
ある意味では嗅ぎ慣れた匂いに、だが顔を顰める。

自分の音楽を聞く人間の中に、嗜む人間がいない訳ではない。
最後ものもはともかく、酒や煙草は法律で認められてる以上、趣向品としての嗜みを否定する気がないのも確かだ。

だが―――と、苦々しく唾を吐き捨てる。

これは、酷い。

チケット売り場は窓ガラスが割られ、地下に続く階段に人が転がっている。
ぐったりとしていて寝ているのか起きているのか分からないが。

ギターケースを手に自分達の塒に押し入ってきた異物を確認して、男達はゆらりと立ち上がる。

「あー…なんだてめ」

言葉は、最後まで聞かなかった。

思い切りギターケースで横っ面を張り飛ばす。
たたらを踏んだ男の足を踏み抜いて、傍にあった椅子をそのまま蹴り飛ばす。

シャブ漬けになっていた男達が、即座に反応することなど不可能だった。

ギターケースを開ける。中に入っていたのはギターではなく、縄。
手と足を縛り、ガムテープで口もふさぐ。さらに傍の柱にくくりつけて逃げられないようにすると、更にいくつか道具を取り出して、もう一度ギターケースを担ぎ直すと地下へと降りて行った。


入口で予想はしていたが……狂楽とはこの事か。
ガンガンに流され続ける音楽。
自分がいつも流しているものと大差ないものだが…だからこそ、侮辱された気になる。
酒に溺れる女。その女の股に押し入る男。
明かりはあれど煙の所為で靄がかったかのように見える。

「世界結界、ね……関係ないって言えれば楽なんだけど」

自分が持った能力。
それを使えばものの数分で制圧する事は可能だろう。
腐っても能力者だ、同じ力を持たない以上、彼らに勝ち目はない。
だが―――腐っても能力者である以上、彼らにその力を使う訳にはいかない。
自分の野望の為に、懸命に生きている人達を脅かす訳にはいかない。
そうなってしまえば、恐らく自分はもう音を奏でる資格などなくなるのだから。

これは、自分の為だけの戦い。
胸を張って、神に唾を吐けるように。

汗を、拭う。

車のライトが流れる道の脇で、ふぅ、と小さく息をついた。



「高校は出ときなさい」



そう言われたのを思い出す。

だがこの現実はどうだろうか。
自分の夢の為とは言え、出席日数も全く足りない。
とうとう2年になってからは月に一度クラスメイトと顔を合わせるかどうか、と言う始末だ。

出席日数に関係なく、進級できる。
そう気付いたのは二年になってから。

一年の頃、足りなくて留年するかとビクビクしていたものの、蓋を開けてみれば何の問題もなく進級していた。
そうなってしまえば、後はずるずると流れていくだけ。

所詮人間だ。楽な方がいい。
興味のない勉強よりも、一歩ずつでも夢に近づける方を選んでしまう。

警備員からコーヒーを受け取り、礼を言う。
顔なじみになってまだ日も浅いがそろそろ変え時だろう。
人のいい笑顔をした中年の男に愛想笑いで返し、空を見上げた。

風は、まだ吹かない。
 




夏休み前。
いつもの様に路上でゲリラ的にライブをしていた。
仲間もいない。ライブハウスを借りても客も一向に増えない。
ゲリラ的にライブを開くのが、自分に出来る最高で、唯一の宣伝だった。
警察に見つかり、補導を受けそうになる。
何度、繰り返しただろう。
何度、繰り返すのだろう。

それでも叫ばずにはいられなかった。





「――――――賭けを、しないか」


胡散臭い男が話しかけたのは、夏の終わり。
いつものように、路上でゲリラライブを開いていた時。
仲間もおらず、一人で喉を潰していた時。

男は言った。

―――とあるライブハウスがある。
―――中規模のライブハウスでな、所有権は私のものなんだが。

はて、と首をかしげた。
誘いは嬉しい。より多くの人に声を届けたいという夢もある。
だがそれならば賭けと言うのはなんだろうか?
男は構わずに続ける。

―――いつの頃からか、性質の悪い連中のたまり場になってしまってな。
―――そいつらを何とか出来たなら、そこの使用権は君に渡そう。




    は?



  バカだろうか、この男は。


耳を疑った。何を言っているんだ?
そんな都合のいい話がある訳ないじゃないか。
普通ならそれこそ警察の介入でもしてしまえばいい。
道端でみっともなく声を張り上げてる一介のロッカー未満のガキに言うセリフじゃないだろう。

男は、笑う。

―――だから、賭けだよ。
―――君があのライブハウスを立て直せるなら、あそこは君の城だ。
―――警察には勿論要請するつもりだったがね。
―――道端でみっともなく歌う君を見て、こう言う余興もいいかと思った、それだけだよ。
―――期日もある。10日後に通報する予定だ。それまでに片がつかない場合、介入されるだけの事。



ようは、遊びか。

俺の音楽は、まだ。
炉端の石を蹴り飛ばして家まで帰れるかどうか、それほどの価値もない。



――――――分かった。



ゆっくりと顔を上げる。




それなら俺が、ぶっ潰す。




そこから、のし上がってやる。



 

笑顔はいい。
表情豊かなのは、もっといい。
本当の表情を隠せるから。
きっと、僕と同じ考えの人はたくさんいる。
僕もその中の一人。
だから、それだけ。

幸せでありますように。そしてそうなったら
皆が幸せでありますように。皆が僕の事を忘れますように。
傲慢な願い事。僕が死んでも悲しまないように。
いつでも微笑みを。
特に何か理由がある訳ではない。
自分に興味がない存在が、何か行動をするのに理由など要らない。
だから、その日も特に理由などなかった。

飛び込んでくる、音。
それにとっては、自分など聞き手の一人に過ぎなかったのかもしれない。
それでも。
涙が出た。
救われたと思った。
自分はここにいていいのだと。
間違ってもいいのだ、と。
失敗作であっても構わないのだ、と。
小さくそのフレーズを口ずさむ。
もう一度、涙をこぼし、微笑んだ。

自分の為に。
自分の為に。
ずっと前に置いてきたはずの涙を流した。
ずっと昔に忘れたはずの笑みを浮かべた。

これから先。
何度も同じ思いに囚われるだろう。
自分の存在価値を見出せず、効率的に考えて必要ないと判断する事も多々あるだろう。

だが、気づいてしまった。
涙をこぼしたときに。
笑みを漏らしたときに。
救われたと思った時に。

もし、万が一。
自分の何かが誰かを救えるのだとしたら―――。

そう儚い夢を持ってしまった。
儚く、逆らいがたく、とてつもない夢。
逃げられるはずがなかった。
逃げるはずがなかった。

何もない自分が見出したたった一つのモノ。
他の誰でもない、俺自身の存在を認めてくれる唯一のモノ。
救う事で救われる。
それが暗いものであったとしても。
自分にとっては、立った一筋の光に思えた。

迷う必要はなかった。
一つの楽器を手に取り、歩き出す。
目に光はまだないけれど。
口元に浮かぶ笑みは間違いなく、虚無から来るものではなく。
目尻に光る涙は間違いなく、自虐的なものではないと思っていた。


                     2005 2 21
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